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トランペットのマウスピースバジングについて
トランペットのマウスピースだけでブーブー音を出すことをマウスピースバジングと呼びます。
おそらくトランペットを吹いたことのある方はほぼ全てがやったことがあるかと思います。
しかしこのマウスピースバジング、プロの演奏家の間でも意見の分かれる事柄で、一般の方の間ではなおのこと誤解や迷信に基づいた知識が広まっているようです。
今回はトランペットのマウスピースバジングについて、基本的な考え方やその効果をご説明したいと思います。
マウスピースバジングは何のために?
世間一般的にはマウスピースバジングを何のために練習しなさいと言われているのでしょうか?
1.唇を震わせることによって、ウォームアップとして
2.唇の形(アンブシュア)や力の入れ具合の確認
3.マウスピースの当て方(角度、位置)の確認
あ、それともうひとつ 4.マウスピースバジングなんて必要ない
も加えておかねばなりません。
どれも決して間違ってはいないように思うのですが、これだけではトランペットの演奏に関してごく狭い側面しか捉えていないんだなという感じがしてしまいます。
そもそもトランペットについて考えるとき、プロアマ問わず多くの人が唇やアンブシュアにばかりフォーカスする傾向があります。
確かにトランペットを演奏するのに、実際に振動するのは唇であることには間違いはありません。
しかし唇を上手に振動させることさえできればトランペットを上手に吹くことができると思っている人がいるとすれば、それは大きな間違いです。
唇を振動させるものは何ですか?
それを体に取り入れるためにはどんな動作をしなければなりませんか?
それはどこへ入り、どこを通って唇へ向かうのですか?
そもそもこれらの事柄をコントロールするために、脳はどのように働かなければなりませんか?
こういったことを統合的に捉えることができなくてはトランペットを意のままに、そして音楽的に演奏するということは非常に困難であると言わざるを得ません。
さて、マウスピースバジングの目的の例として上に挙げた項目はウォームアップや確認作業としてのものですが、僕はそうではなく、マウスピースバジングを行うならば演奏能力を発展させるための練習=トレーニングとして行うべきであると思います。
そこでトレーニングとしてのマウスピースバジングついて解説してみたいと思います。
マウスピースバジングの効果
1.音、そして音のツボを正確に狙う能力を向上させることができる
基本的にトランペットという楽器で特定の音を正しく吹くためには、その音を頭の中で狙う必要があります。
しかし実際にはマウスピースにトランペット本体をつけて吹けば、その狙いが曖昧なものであっても(大まかにですが)音程を補正してくれる働きがあります。
これは一見すると便利なようにも見えますが、この「補正機能」に頼るということは音をそこまで正確に狙わないままトランペットを吹いてしまうこととなります。
吹きたい音を正確に狙わないということは、本来その音を出すのに最適ではない身体のセッティングでトランペットを演奏するということです。
そうなるとこれは持久力や音色、音域の向上の足かせとなるだけでなく、演奏するうえで最も重要な音楽性を失うことにも繋がってしまいます。
分かりやすい例を挙げるならば音の出だしでわずかにしゃくってしまうとか、一発で高めの音を当てられないなどのケースです。
これらの場合はトランペットを音を出す際にその音を頭の中でイメージできていない=狙えていないということが原因のことがかなり多いように思います(もちろん複数の原因が存在することもありますが)。
トランペット本体がもつ大まかな「補正機能」に頼らず、マウスピースバジングの状態でも狙った音を出せるように練習することで、自分の吹きたい音を正確に狙う習慣を作ることができます。
この習慣をしっかりと身につけることによって、トランペットを付けた時でもその音を演奏するのにベストなセッティングで演奏することが可能になります。
2.唇の振動を口腔内で共鳴させるコツを身に付けることができる
さすがにマウスピースバジングだけでトランペットのような音を響かせることはできませんが、まず1つはトランペット本体による音を共鳴させる補助がないために音がよく響いている状態とそうでない状態が分かりやすいというのがあります。
これは文字で表現するのはちょっと難しいのですが、マウスピースバジングでよく響いている状態というのは吹き込んでいるエアの量に対して出ている音がクリアで大きく、「ビーッ」という感じです。
またそのときの上半身もリラックスしており、唇や口腔から伝わってくる振動もなんとなく心地よいと感じるかと思います。
また2つ目に、マウスピースバジングであれば自在にグリッサンドすることが可能になるのですが、グリッサンドを用いることにより口腔内の状態(特に舌や軟口蓋)をより柔軟に動かすことが可能になり、どのような状態が最も口腔内で唇の振動を共鳴させることができるのか探すことが可能になります。
マウスピースバジングでサイレンのように吹く練習がありますが、この練習はそのためにとても役立ちます。
ちなみに口腔内の形というと舌の形にのみ注目する方もいますが、舌だけでなく軟口蓋(=上あごの奥の柔らかい部分)も重要であるということを強調しておきます。
※軟口蓋については多分そのうち別記事書きます。
3.エアポンプとしての上半身の機能を向上させることができる
先に挙げた、音のツボを正確に狙うことや口腔内の形の最適化だけではマウスピースバジングの効果の半分も得ることはできません。
この後の記事で紹介するBuzzing Bookを用いて練習することが前提ですが、これによって唇の振動や共鳴を最適に保つのと同時並行的に、空気を出し入れするポンプである上半身の機能をフルに活用するトレーニングが可能になります。
通常の練習をしながら空気をいっぱい吸うように意識するのももちろん有効ですが、後述するバジング練習器具やBuzzing Bookを組み合わせて練習することによってより効率よくエアポンプの機能を強化することが可能になります。
なんだかやたらと長くなってしまいました…… マウスピースバジングの注意点や一般的に言われるマウスピースバジング不要論など、まだまだ書きたいことがたくさんあるので記事を分割しようと思います。
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