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実際に唇の調子が悪くなってしまったら
さて実際に唇の調子を崩してしまったらどう対処すべきでしょうか。
くどいようですが前回まで書いてきた通り、「唇の調子」と言っても唇そのものに問題がある例は極度の吹きすぎや荒れ、外傷によるものを除けばさほど多くありません。
多くの場合はトランペットを吹くために必要な唇以外の機能がそもそも足りないか一時的に弱まっているために演奏にまつわる全ての負担が唇へと集中してしまい、それによって唇の調子が悪いと感じる状態になってしまうのです。
今回はその対処法について書いてみたいと思います。
基本は休ませること
原因はいろいろあるかもしれませんが、結局のところ唇に過度の負担がかかっている状態なのですからまずは休ませることが大事です。
どの程度休ませるべきかに関してはケースバイケースなので一概に言うことはできません。
1日休めば治ってしまうこともありますし、何ヶ月もの休養を必要とする場合もあります。
毎日吹いている僕の場合はどうしても調子が悪いというときでも1日練習を休むことによって大体のスランプは回復傾向へと向かいます。
また完全な休みが取れなくとも2、3日の間練習を軽めにするというのも効果があります。
大学3年のころ精神的に追い詰め過ぎてしまったせいか、トランペットを初心者に戻ったかのように吹けなくなるという致命的な絶不調に陥ったことがあります。
その時はまるまる2週間トランペットを吹くことをやめました(その後回復までには半年以上を要しました)。
このように唇の不調にはメンタルの状態が関係することがありますが、その場合であっても再びトランペットを吹きたくなるまで休むということが必要です。
調子が悪いときに心がけること
●トランペットを吹きたくないと思ったときは吹かない
上で書いたことの繰り返しになりますが、もしあなたがトランペットを吹きたくないと感じるならば無理をして吹くことはありません。
それは単に気持ちが辛いからだけでなく、気持ちがトランペットの演奏に向かないときは身体の各部のセッティングが微妙にうまくいかないからです。
その状態で無理をして演奏を続けることはそのアンバランスな状態を脳に覚えさせてしまうことにも繋がり、より事態を悪化させることにもなります。
●急がないこと
時間に追われて練習したり、早く調子を戻そうとして焦らないことです。
そもそも焦って無理に唇を振動させることが原因で調子を崩したのかもしれませんし、焦りはブレスを浅くさせます。
急ぐこと、焦ることは100%絶対に良い結果をもたらしません。
●ブレスは長く、ゆったりと深く
ブレスをゆったりと深くとることは重要です。
なぜ「長く」なのかというと、短い時間で大量の息を吸い込むことは余計な力みを生むことが多いためです。
もちろん曲によっては瞬発的なブレスを求められることは多いかと思いますが、これを力みを発生させずに行うことは実は少し難しいことです。
ますは普段からゆっくりと深くブレスすることを心がけておきましょう。
●マウスピースを暖める
特に寒い時期に冷たい状態のマウスピースを唇に当てて吹き出すのは良くありません。
マウスピースは手で温めておきましょう。
不調時の練習メニュー
多くの方にとっての関心事は不調の時に具体的にどんな練習をすれば良いのかであると思いますが、まずはここまで書いてきた内容をよく読み理解してから以下の練習メニューに取り組んでみましょう。
ここに書いた練習を正しく理解せずに取り組んでも時間の無駄です。
1.マウスピースを唇を振動させずに吹く
これは不調が何日も続いているとき、その日の練習の一番初めに行います。
トランペットを吹くときのアンブシュアで唇を振動させずにマウスピースを吹いてみましょう。
あまりの不調でそのアンブシュアがわからなくなってしまっていても何一つ問題ありません。
その場合はなんとなくの形で結構です。
リラックスし、ゆっくり大きくブレスし小さめの音でロングトーンをするかのように息を吹き込みます。
音を出さないんじゃ意味が無いじゃないかと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
調子の悪い時ほど「唇を振動させて音を作らなきゃ」という思考は強迫観念に近いものを帯びてくることがあります。
この思考から頭を切り離してマウスピースを吹くことによって少しずつ体の使い方をいつもの状態に戻してあげるのです。
僕は不調の時、時間のある限りこれを行います。
音楽を聴いたり本でも読みながら、そして休憩を挟みつつ1、2時間くらいだらだらと続けます。
だんだんトランペットを吹いても良いかなという気持ちになってきたら初めてトランペットをつけてみます(→2へ)。
「トランペットを吹いても良いかなという気持ち」と書きましたが、もしそうならなかった場合はどうすべきでしょうか?
そういうときはそのままもう1時間くらい続けても構いませんし、止めてしまっても構いません。
焦りは禁物です。時間をかけてじっくりと不調と付き合っていきましょう。
2.小さい音でロングトーン
トランペットにマウスピースをつけて(唇を振動させずに)息を吹き込んでみて、やはりトランペットを吹いてもいいかなという気持ちになってきたら実際に音を出してみましょう。
ただしごく小さな音で、しかも一番楽な音でです。
唇をはっきりと振動させるというよりは「ヒュー」と息を流し込んで口笛を吹くような感覚です。
はじめのうちは管を空気が通り抜ける音しかしませんが、その中にうっすらとトランペットの音の元とでもいうような音がしてきます。
そこから通常通りに唇を振動させるのではなく、その小さな音をいくつかロングトーンしてみましょう。
※ロングトーンと言いつつ途中からいくつかの音を自由に吹いていますが、慣れないうちは一つの音だけにしておいたほうが良いでしょう。
3.ベンディング
さらにこのようなベンディングを練習します。
体が力んでいる状態でベンドしようとすると音が下の別の音へと落ちてしまいます。
しっかりとブレスを取った上で練習してみましょう。
とりあえずここまでがいつものパターンといったところでしょうか。
これらのメニューは調子の悪い時だけでなくウォームアップとしても使えるので普段から行ってももちろん結構です。
スランプはただ脱するだけではもったいない
そもそも誰だって必ずスランプに陥るものです。
トランペットに限らず、何事も調子のいいときもあれば必ず悪い時だってあるものです。
ですからスランプに陥ることを怖がることは砂浜に押し寄せる波を止めようとするくらい無駄なことです。
ただ、波は防波堤を作れば弱めることができます。
トランペットの演奏においては正しいウォームアップや心のコントロールがそれに当たるでしょう。
唇が不調だと感じてスランプに陥ったときには誰もが悩み苦しむものですが、実はトランペットの演奏だけでなく音楽に関わっていく上でとても大事なことを学ぶことができる重要なチャンスでもあります。
逆に言うならスランプにただ苦しめられ、なんとなくそれが過ぎ去ってしまったとしたらそれは大変もったいないことです。
前々回
トランペットを吹いていて唇の調子が悪い?
前回
唇のコンディションをうまく保つためには