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『エフォートレス・マスタリー』を本当に活用するために
ジャズピアニストでケニー・ワーナーという方がいますが、彼の書いた本で『エフォートレス・マスタリー』(邦訳版は訳:藤村奈緒美 ヤマハミュージックメディア, 2019)というものがあります。
今回はその本をご紹介したいと思います。
これからなんやかんや書いていきますが、結論から言えば非常に素晴らしい本です。
どんな演奏楽器やジャンルでも、音楽を演奏することのある人は必ず1冊は持っておいた方が良いと言える名著です。
特に吹奏楽にどっぷりという方にとっては、あまりにも核心を突きすぎているためにもしかしたら受容しがたいことも多いかもしれません。
ちなみに最近動画も撮りましたので、YouTubeでサクッとという方はそちらをどうぞ。
この本は多くのブックレビューやYouTube動画では、いわゆる「音楽家のためのメンタル本」として評価されることが多いのですが、この本を単なるメンタル本として扱ってしまうのは非常にもったいないと感じ、今回ブログでもとりあげることとしました。
まあ「誤解されがち」とは書きましたが、実際この本で分量的に最大のパートを占めているのは音楽に触れる際の精神的な側面についてです。
ですからこの本を「メンタル本」として括ることは厳密には間違いではないでしょう。
しかしこの本を読む方は、これを読むことによって自分の演奏に何らかの好影響を得たいと考えている方が大半であると思います。
そんな思いを持っている方が実際に成果を得るためには、この本を読んで「あーやっぱりメンタルが大事なのね」という理解では全く不十分です。
この本の最も優れた点は、ケニー・ワーナーが発見した、音楽を演奏する上で重要なメンタル面での考え方について解説してあるという点では全くありません(多くのレビューではここばかりが強調されますが)。
本当に重要なのは、それをどのようなプロセスを経て読者の実際の演奏に落とし込んでいくかということが非常に実践的に書いてあるという点にあります。
また実際に著者であるケニー・ワーナーの演奏自体もこの本の内容を裏打ちするような、音と音が自由自在に、しかも水が流れていくかのように全く無理なく繋がっていくものであるという点も、この本の説得力を補強するものとして挙げることができます。
しかし残念ながら、この本を読めば誰でもが内容を簡単に理解し、実践し、演奏をすぐに向上させることができるというイージーなものでもないということは事実として書いておかねばなりません。
その理由としては以下の5つが挙げられます。
本文に書いてあることはおそらく誰でも表面的には理解することができ、またそこまで反論の余地もないであろうことばかりが書いてあります。
ものすごく雑に言えば、「肩の力を抜こうよ」「自分を信じて」みたいなよくある考え方を詳細に、著者自身の実体験を通じて書いてあります。
ですから読者がこの本を読んで最終的に目指すところでもある、「良い音楽(芸術)」に対するその人なりのビジョンがあまりにもぼんやりしている、もしくは全くの見当違いである場合には文章の意味がサラッと流れていってしまい、この本が伝えようとしていることの多くが伝わりづらいのではないかと思います。
これは著者がそういった書き方をした英文をさらに邦訳したものなので、ある程度は仕方のないことだと思うのですが、言葉の言い回しが独特、というかなんだか宗教じみているという点です。
一見するとヨガとか世界の宗教をちょっとずつ齧った欧米人にありがちなやつというか、いろんな宗教をごちゃ混ぜにしたような考え方が何だか鼻についてしまい、本来重要なはずのその内容がなかなか頭に入ってこないのではないかと思います。
実際この記事を執筆している今現在、Amazonのカスタマーレビューで多くの「役に立った」を得ているレビューがこれに関係するものだったりします。
これも執筆している時点での情報にはなりますが、この本で4回出てくる瞑想パートで用いる音源に日本語版が存在しません。
個人的にはこの本での瞑想はやっていないので必要性は感じませんが。
先に書いた通り、この本には著者が発見した演奏に役立つメンタル的な考え方を、実際に読者の演奏へ落とし込むためのプロセスが書いてあります。
ですから「こういった考え方をすればあなたの演奏はすぐに改善しますよ~」といった類のものでは断じてありません(まあそれでも読んだだけで一時的に多少の改善を見ることができる方も少なくはないでしょうが)。
そもそも著者が提唱する考え方そのものは決して珍しいものではないと思います。
しかしこの本の重要な部分はそれを読者が身に着けるための具体的な方法であって、しかもその方法はもの凄く「小さなことからこつこつと」的な、非常に地味で古典的な(しかし最も確実で早い)やり方です。
ですからこの本を読んですぐに何かが変わってあなたの演奏が改善するということは、残念ながら基本的にはありません。
もしあったとすればそれは一過性で、本来得られるはずであろうものから比べたら非常に小さなものです。
この本に興味を持つ方のほとんどは、この本を読むことによって演奏を改善したいと思う方でしょう。
そうでなかったらこんな分量のある本を積極的に読みたいと思うでしょうか(約340ページ)。
しかしこの本に載っている重要な部分の一つに、「結果を追い求めてはいけない」的な記述があります。
性急に結果を追い求めるのをやめることによって見えてくるものは確かにあります。
しかし、自分の演奏を向上させたいという人に向かって「いやいや、結果は追い求めるな」ですから、人によってはこのパラドックスを乗り越えられずに読むことをやめてしまう方も出るかもしれません。
悪い言い方をすれば、胡散臭い教祖様が「神を疑ってはならない。ただ信じなさい。」と言っているようにも受け止めることのできる部分です(笑)
「じゃあもし結果が出なかったら今までの労力と時間は返してくれるの!?」という台詞が大半の読者の頭の中でよぎるであろう部分ではありますが、ここは少し辛抱して読み進めてみてください。
というわけで、今回はケニー・ワーナー著『エフォートレス・マスタリー』を実際に読んで本当に活用することのできる人が増えれば良いなと思ってここでご紹介してみました。
肝心の内容に関してはネットで見ることのできるレビュー等でもざっくりとは載っていますし、冒頭で挙げた僕の動画の後半部分でも簡単にご紹介しています。
より詳しく正確に知りたいという方には本書の序文や前書きをお読みになると良いと思います。
Amazonの試し読みなどで公開されていますのでぜひお試しください。
今回はその本をご紹介したいと思います。
これからなんやかんや書いていきますが、結論から言えば非常に素晴らしい本です。
どんな演奏楽器やジャンルでも、音楽を演奏することのある人は必ず1冊は持っておいた方が良いと言える名著です。
特に吹奏楽にどっぷりという方にとっては、あまりにも核心を突きすぎているためにもしかしたら受容しがたいことも多いかもしれません。
ちなみに最近動画も撮りましたので、YouTubeでサクッとという方はそちらをどうぞ。
メンタル本だと誤解されがち
この本は多くのブックレビューやYouTube動画では、いわゆる「音楽家のためのメンタル本」として評価されることが多いのですが、この本を単なるメンタル本として扱ってしまうのは非常にもったいないと感じ、今回ブログでもとりあげることとしました。
まあ「誤解されがち」とは書きましたが、実際この本で分量的に最大のパートを占めているのは音楽に触れる際の精神的な側面についてです。
ですからこの本を「メンタル本」として括ることは厳密には間違いではないでしょう。
しかしこの本を読む方は、これを読むことによって自分の演奏に何らかの好影響を得たいと考えている方が大半であると思います。
そんな思いを持っている方が実際に成果を得るためには、この本を読んで「あーやっぱりメンタルが大事なのね」という理解では全く不十分です。
この本の何が凄いのか
この本の最も優れた点は、ケニー・ワーナーが発見した、音楽を演奏する上で重要なメンタル面での考え方について解説してあるという点では全くありません(多くのレビューではここばかりが強調されますが)。
本当に重要なのは、それをどのようなプロセスを経て読者の実際の演奏に落とし込んでいくかということが非常に実践的に書いてあるという点にあります。
また実際に著者であるケニー・ワーナーの演奏自体もこの本の内容を裏打ちするような、音と音が自由自在に、しかも水が流れていくかのように全く無理なく繋がっていくものであるという点も、この本の説得力を補強するものとして挙げることができます。
この本には受け入れられづらい理由も
しかし残念ながら、この本を読めば誰でもが内容を簡単に理解し、実践し、演奏をすぐに向上させることができるというイージーなものでもないということは事実として書いておかねばなりません。
その理由としては以下の5つが挙げられます。
1.「良い音楽(芸術)」とは何か、ということに関して読者が一定以上の見識を持っている必要がある
本文に書いてあることはおそらく誰でも表面的には理解することができ、またそこまで反論の余地もないであろうことばかりが書いてあります。
ものすごく雑に言えば、「肩の力を抜こうよ」「自分を信じて」みたいなよくある考え方を詳細に、著者自身の実体験を通じて書いてあります。
ですから読者がこの本を読んで最終的に目指すところでもある、「良い音楽(芸術)」に対するその人なりのビジョンがあまりにもぼんやりしている、もしくは全くの見当違いである場合には文章の意味がサラッと流れていってしまい、この本が伝えようとしていることの多くが伝わりづらいのではないかと思います。
2.宗教じみた言い回し
これは著者がそういった書き方をした英文をさらに邦訳したものなので、ある程度は仕方のないことだと思うのですが、言葉の言い回しが独特、というかなんだか宗教じみているという点です。
一見するとヨガとか世界の宗教をちょっとずつ齧った欧米人にありがちなやつというか、いろんな宗教をごちゃ混ぜにしたような考え方が何だか鼻についてしまい、本来重要なはずのその内容がなかなか頭に入ってこないのではないかと思います。
実際この記事を執筆している今現在、Amazonのカスタマーレビューで多くの「役に立った」を得ているレビューがこれに関係するものだったりします。
3.瞑想用の音源に日本語版がない
これも執筆している時点での情報にはなりますが、この本で4回出てくる瞑想パートで用いる音源に日本語版が存在しません。
個人的にはこの本での瞑想はやっていないので必要性は感じませんが。
4.「メンタル本」であることを期待して読むと裏切られる
先に書いた通り、この本には著者が発見した演奏に役立つメンタル的な考え方を、実際に読者の演奏へ落とし込むためのプロセスが書いてあります。
ですから「こういった考え方をすればあなたの演奏はすぐに改善しますよ~」といった類のものでは断じてありません(まあそれでも読んだだけで一時的に多少の改善を見ることができる方も少なくはないでしょうが)。
そもそも著者が提唱する考え方そのものは決して珍しいものではないと思います。
しかしこの本の重要な部分はそれを読者が身に着けるための具体的な方法であって、しかもその方法はもの凄く「小さなことからこつこつと」的な、非常に地味で古典的な(しかし最も確実で早い)やり方です。
ですからこの本を読んですぐに何かが変わってあなたの演奏が改善するということは、残念ながら基本的にはありません。
もしあったとすればそれは一過性で、本来得られるはずであろうものから比べたら非常に小さなものです。
5.根本的なパラドックスをはらんでいる
この本に興味を持つ方のほとんどは、この本を読むことによって演奏を改善したいと思う方でしょう。
そうでなかったらこんな分量のある本を積極的に読みたいと思うでしょうか(約340ページ)。
しかしこの本に載っている重要な部分の一つに、「結果を追い求めてはいけない」的な記述があります。
性急に結果を追い求めるのをやめることによって見えてくるものは確かにあります。
しかし、自分の演奏を向上させたいという人に向かって「いやいや、結果は追い求めるな」ですから、人によってはこのパラドックスを乗り越えられずに読むことをやめてしまう方も出るかもしれません。
悪い言い方をすれば、胡散臭い教祖様が「神を疑ってはならない。ただ信じなさい。」と言っているようにも受け止めることのできる部分です(笑)
「じゃあもし結果が出なかったら今までの労力と時間は返してくれるの!?」という台詞が大半の読者の頭の中でよぎるであろう部分ではありますが、ここは少し辛抱して読み進めてみてください。
というわけで、今回はケニー・ワーナー著『エフォートレス・マスタリー』を実際に読んで本当に活用することのできる人が増えれば良いなと思ってここでご紹介してみました。
肝心の内容に関してはネットで見ることのできるレビュー等でもざっくりとは載っていますし、冒頭で挙げた僕の動画の後半部分でも簡単にご紹介しています。
より詳しく正確に知りたいという方には本書の序文や前書きをお読みになると良いと思います。
Amazonの試し読みなどで公開されていますのでぜひお試しください。