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トランペットの奏法をアンブシュアから見直すことの愚かさ#3


唇の画像

前回の末尾にトランペットのアンブシュアについて悩んでいる方が特に忘れてしまいがちな重要な点として目的地設定とガソリン(エンジン含む)の二点を挙げましたが、今回はその二点について書いてみたいと思います。

 

唐突にトランペットの演奏を車の運転に例えてみる


僕も音楽教室として様々な方にトランペットを指導してきましたが、人によってはトランペットの演奏を車の運転に例えるとすんなり理解していただけたりします。

車に全く興味のない方やそもそも車を運転したことがない方にはぽかんとされてしまう恐れはありますが(笑)

まあとにかく、あなたが今から車を運転するとして以下の二項目について考えてみましょう。


目的地の設定


ほとんどの場合、車を運転する際にはこれから行こうとする目的地があるはずです。

まあ特に行くあてもなくその辺をふらっとドライブするなんてこともあるかもしれませんが、それでもあの店へ寄ってみようとかどんな道を走りに行こうなどの目的は存在するはずです。

 

これはトランペットの演奏でいうところのイメージングに相当します。

トランペットで何か一つの音でも演奏する場合は、何の音を、どのようなアーティキュレーションで、どのくらいの大きさで、どのような音色で吹くのかを実際に音を出す前までに決定しなければなりません。

一見すると大変なことに見えるかもしれませんが、決して難しいことではありませんし、あなたが普段声を出す前にはほぼ同じプロセスを行っています。

ですからこれは習慣づけてしまえばトランペットの演奏でも歌ったりしゃべったりするときのように、ほぼ無意識のうちにこれらの要素をまとめて頭の中にイメージすることが可能になります。

 

多くの方はトランペットを吹く前にどんな音を吹くか(イメージング)ではなく、どうやって吹くか(アンブシュアや息の入れ方、角度など)を強く考えてしまう傾向にあります。

これはドライブに出かけるときに目的地ではなく、アクセルやブレーキの踏み加減や右左折の回数を決めてから走り始めることと同じことです。

車の運転でこんなことをする人はいないかと思いますが、もし実際にこれを行ったとしたら目的地へたどり着くことができないばかりか、事故やトラブルの原因となってしまいます。

通常、車の運転では事前に定めた目的地に応じて道順が決まり、その道の状況に応じてスピードなどが決まってきます。

トランペットの演奏でも「私は今からどんな音(テンポ、音程、音色、強弱、アーティキュレーションなども含む)を吹きたいのか」という目的を具体的に設定していなければ、どうやって吹くかなどということは考えても全く意味のないことです。

 

というわけで、トランペットがうまく吹けなくて困った場合、まず第一に自分がその音を明確にイメージできているのかチェックしましょう。

関連動画:初心者から上級者まで、トランペットを吹くときに1つだけ忘れないで欲しいこと

自分はこれから演奏することをはっきりとイメージできていると思っても全然できていないことは非常に多いです。

それをすっ飛ばしてアンブシュアから見直そうとするのはドツボにはまる原因に繋がります。

 

明確な目的が存在しなくてはそこへ到達する確実な手段など考えられません。当たり前のことです。

あなたがトランペットを吹く上での目的を達成するための確実な手段が欲しければ、まずはっきりと(一つの音ごとに)目的を設定しましょう。

 


ガソリン(とエンジン)


なぜガソリンとエンジンをひとくくりにしているのかは後で書きます。

 

車を運転するためにはガソリンが入っていなくてはなりません。

目的地を決め、走り出したところでガス欠になってしまってはゴールすることは不可能です。

まあ現在では実際に車でガス欠を起こして大変な目にあったという方は少ないでしょうが、トランペットの演奏においてはしょっちゅう起こりがちなことです。

 

トランペットの演奏におけるガソリン、それは空気のことです。

トランペットは息を吹いて鳴らす楽器ですが、そもそも吸わなければ吹くことはできません。

トランペット=吹くものであるという観念に囚われて「吹くための準備として吸う」ということがおろそかになっている人は非常に多く見受けられます。

また個人的には欧米人にくらべてそもそも日本人は呼吸が浅いような気がします。

欧米人なんかと話すと声の中に低い成分が多く(性別問わず)、よく響いていたり、そもそもの声が大きかったりします。

そういった点からも特に日本人がトランペットを演奏する場合はより意識的にブレスを深くとる必要があると感じています。

 

息を深く吸うことによってトランペットの演奏のためにたくさん息を使うことができる・・・だけではなく、同じフレーズや曲を演奏するときに、息をたくさん吸っておいた方がより(身体的にも精神的にも)余裕をもって演奏することができるのです。

※「息を大きく吸う」というと「より多くの息をトランペットに吹き込む」と誤解される方が非常に多いです。

小見出しでガソリンとエンジンと一緒にしたのはここに理由があって、息をたくさん吸うということを車に例えると、燃料タンクとエンジン排気量の両方を大きくした状態の車を運転するのと同じような状態になります。

高速道路を軽自動車と大排気量の高級セダンで、同じ速度で走るときを想定してみればお分かりいただけるかと思います。

排気量の大きな車の方が圧倒的に快適で、運転していて疲れないのです。

車を運転することの少ない方に対しては分かりづらい例えで本当に恐縮なのですが・・・

 

息を入れる肺という臓器はスポンジ状になっており、一定以上空気を吸い込むと膨らんだゴム風船が元に戻ろうとするかのように空気を外へ押し出そうとします。

息をたくさん吸った肺が外へ空気を押し出そうとする働き、これがエンジンです。

トランペットを吹くとき、腹筋を引っ込めたり肩や胸に力を入れたりして筋肉の働きだけに頼って空気を送り出そうとしている人がいますが、トランペットの奏法という観点からは効率が良いとは言えません。

こういった動きは上半身に大きすぎる力みを生み、多くの場合音色の悪化(薄く、硬くなる)や持久力の低下などに繋がります。

 

注意していただきたいのは、トランペットを吹くとき、腹筋などの筋肉を全く使わないわけではありません。

ただ膨らんだ肺がしぼんでいこうとする力を、息を吐きだす動力として最大限に活用していこうということです。

しぼんでいこうとする肺に息を押し出す役割を担ってもらうことによって、その他の筋肉は必要最低限の働きしかしなくなります。

※例えばハイノートヒッターが気合を入れたハイトーンを演奏するときにやたらと大きなモーションと共に演奏することがありますが、これが十分なエアの供給を行ったうえでのものならとても効率的なものになり得ますし、それがその音を出すための「必要最低限」の筋肉の働きなのだと考えています。

 

これによって、唇で生まれた振動がトランペットだけでなく、口腔や体全体を通じて効率よく共鳴することが可能になります。

もちろん単に力を抜くだけであなたにとって最適な共鳴が生まれるわけではありません。

これにはコツいるので、そのための練習も必要となってくるのですが、本論とずれてくるため今回は割愛します。

一応ジェームズ トンプソンの『The Buzzing Book』やアダム ラッパの『トランペット・コーディネーション・テクニック』などが非常に役立つとだけ書いておきます。

また、前半に書いた音のイメージングがはっきりしている人はこの共鳴する感覚を掴みやすい、というか自然に掴めてしまっているケースも少なくありません。

いずれにせよこの共鳴を利用することができれば、同じ音を出すときに唇にかける負担は今までよりも少なく、しかし音色は美しくより遠鳴りする音色を自由自在に出すことが可能になるのです。

 

 

少し長くなったので簡潔にまとめると以下のようになります。

息をしっかりと吸う



肺を膨らませ、肺がしぼむ力を利用する(今まで息を吐きだすのに使っていた筋肉は最小限に)



唇の振動が共鳴しやすくなる(コツは必要だが明確なイメージングによってカバーも可)



唇への負荷軽減=持久力向上、音色、フレキシビリティの向上、音域の拡大

 

アンブシュアに悩む人の多くは持久力や音色、音域などに悩みを抱えていることかと思いますが、ここまで書いたことをベースとして練習していけば、多くのケースにおいてアンブシュアを変えるという大冒険をおかさなくとも問題を解決することが可能です。

 

 

アンブシュアは後からついてくる


トランペットを演奏していて本当に調子が良い、もしくは気持ちいいと感じる時はアンブシュアのことなんて忘れてしまっていることがほとんどです。

なぜなら前回書いた通り、トランペットというものは芸術を表現するための単なる道具でしかなく、その道具のコントロールに気を取られていては本当の意味で音楽に没頭することなど不可能だからです。

ですからその「道具」のコントロールのための、重要ではあるが最重要というわけでもないパート=アンブシュアについてのみいつまでも時間をかけて考えるよりも、他の部分が悪影響を及ぼしている可能性にも視野を広げるべきです。

ただし前にも書いた通り、唇は「異状を感知しやすい部位」であり、他の部位はそうでもないため、アンブシュア以外の原因を探ることは容易ではないため、多くの人はここで思考がスタックしてしまいます。

 

ついでに少し余談にはなりますが、トランペットを教える立場からすれば、生徒さんが「私アンブシュアが変なんです」と訴えてきているので「それじゃあこんな感じはどう?アンブシュアの改造には最低半年から1年はかかるけど、そこは頑張ろうね」と言った方が、生徒さんの要求をとりあえず満たすことになりますし、当面の間は確実にレッスンに通ってくれますからある意味win-winです。

それに「私頑張ってトランペットやってます感」はこっちの方が強いでしょう。

逆に「アンブシュアが変なんです」と訴えてくる方に対して「いや、そうではなくて……」と説明するにはトランペットの演奏に対して一定以上の知識と、その方を分析し、それを嚙み砕いてわかりやすく伝える能力が要求されます。

そのうえアンブシュアについて悩んでいる方の多くは大変思い詰めていらっしゃいますから、きちんと解説したところで理解を示してくださらないかもしれません。

そして結果的に「この先生は私のことを分かってくれない」と思われてしまったら、教える側は仕事を失います(笑)

ですからアンブシュアを変えましょうというアドバイスには、いろんな意味でのインセンティブが発生してしまうのです。

 

 

それはさておき、僕はアンブシュアを絶対に変えてはいけないとは思いません。

僕自身アンブシュアを変え、一定の改善効果を得たこともありました(その後奏法を研究して得られた効果の方がはるかに大きかったのですが)。

また場合によっては生徒さんへアンブシュアを変えた方が良いとアドバイスすることがあります。

しかしアンブシュアを改造するのは今回書いたことをきちんと飲み込んでからでも遅くはありませんし、逆にこの考え方を知らないままアンブシュアに手を付けるのは結局ドツボにはまってアンブシュアやマウスピースをとっかえひっかえする原因にもなりかねません。

そのためにもまずはあなたの目的地設定、そしてガソリンとエンジンを十分に機能させることができているかをチェックしてみてはいかがでしょうか?

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