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トランペットの奏法をアンブシュアから見直すことの愚かさ#1
トランペットを演奏する人なら誰しもが必ず直面する問題、それがアンブシュアです。
今さらアンブシュアについて解説する必要もないでしょうが、トランペットを演奏する際の唇(とその周辺)の形のことです。
僕の音楽教室へいらっしゃる方の中でも多くの方は「実は私、アンブシュアについても悩んでまして…」と打ち明けられることが多いです。
YouTubeなどSNSでもアンブシュアに関する投稿が多く見られますし、挙句の果てにトランペットのアンブシュア矯正を専門に指導する音楽教室まで登場し、トランペット奏者の間でアンブシュアというのは本当に大きな関心を惹く問題なんだなと実感させられます。
トランペットの演奏にアンブシュアは重要なのか
僕個人のことで言えばアンブシュアで悩んだ期間はおそらく人より長かったかと思います。
実際にアンブシュアを変えて調子を崩したり良くなったりというのも一通り経験し、プロになってやるという気負いもあってか長い期間、文字通りのたうち回って苦しんだ経験があります。
ですから現在トランペットのアンブシュアに悩んでいる方の気持ちはよくわかるつもりです。
なのにこんなブログタイトルだとアンブシュアを見直すことに否定的だと思われるかもしれませんが、そうではありません。
他の多くのトランペット演奏家たちが指摘している通り、トランペットを吹くのにアンブシュアは確かに大事です。
しかしそれさえ直せば全てが解決すると言っている専門家はどのくらい存在するか考えてみたことはあるでしょうか?
恐らく上に述べたアンブシュア矯正専門音楽教室の方ですらそこまでは言わないかと思いますが、対して一般の方にはそういった考えを持ってしまう方が少なくないのが現実です。
情報を発信する方と受ける方での言葉の認識が大きく異なってしまい、思わぬ齟齬を産むケースは世の中に多く見受けられますが、残念ながらこれもまたその一つなのだと思います。
なぜトランペット奏者はアンブシュアばかり気にするのか
トランペットを演奏する人の多くがアンブシュアをよく気にします。
それは唇という部分が人体の中でも非常に敏感で、そして同時に弱い部分であるからです。
あなたは唇が腫れて振動しづらくなったり、痛くなったり歯形がついたり、ひどい時には血が滲んだことはありませんか?
また演奏がうまくいかないなと思うとき、真っ先に違和感を覚えるのは唇だったりしませんか?
何かの問題があってトランペットの演奏がうまくいかない場合、そのしわ寄せが顕著に表れる部分が唇なのです。
だからこそ多くの人は演奏がうまくいかないのはアンブシュアが原因だと思い込んでしまうのですが、本当にそれで正解なのでしょうか?
結局唇には異状が表れやすく気付きやすいというだけで、異状を感じたからといってその部位が原因だと考えるのは短絡的です。
症状が出た部分のみに着目しその原因を探ることなく、ましてやアンブシュアを安易に変えさせることがあるとすればそれは非常に危険です。
アンブシュアを変更するとなれば一定期間トランペットの演奏がしづらくなりますが、我々プロのように頻繁に演奏する機会の無い一般の方に対して安易にそうすることを勧めることはできません。
その上演奏がうまくいかない原因が実はアンブシュア以外のものだったとすればもう目も当てられません。
少なくとも僕が今までの経験でお会いしてきたトランペットの演奏で悩んでいる方の多くは、実はアンブシュアよりもさらに根本の部分に問題を抱えているケースがほとんどでした。
つまり自分ではその根本の問題に気づかずにアンブシュアが悪いと思っているのです。
確かにアンブシュアを直せば演奏が改善するケースも存在しないことはありません。
しかし僕の実体験からすれば世の中で言われているほどには多くはない―――恐らくアンブシュアが悪いと感じている人の7~8割はそれ以外の原因によるもの―――というのが正直な感想です。
本当に必要なのは対症療法ではなく原因療法
トランペットの演奏に悩みを持つ方の、その悩みの原因は多くの場合アンブシュアそのものにあるわけではないのだとしたらどこにあるのでしょうか?
演奏者一人一人によって異なるその原因を見つけ出し、効果的なアドバイスをするのはトランペットを教える側の責務の一つですが、安易にアンブシュアをいじれば改善するだろうと考える指導者がいるとすれば大きな問題です。
ここで100歩譲って考えてみます。
ある人がアンブシュアを変え、何か月もかけて頑張って練習し、新しいアンブシュアに対する違和感を完全に克服したとしましょう。
その人の演奏能力はアンブシュアを変える前と比べてどの程度改善するか考えたことはありますか?
アンブシュアはただでさえ変えるのに苦労するものですし、練習する機会の多くはない一般の方にとっては本当に一大事なのですが、アンブシュアは一度変えればもう二度とそれについて悩む必要がなくなるのでしょうか?
答えはNOです。
アンブシュアを変え、頑張ってそれに慣れてしまえば一定の期間はそこそこ気持ちよく演奏することができるかもしれません。
しかしアンブシュアに悩みを持つようになってしまう根本的な原因を改善しなければ、結局のところいつまでたってもトランペットを演奏するたびにアンブシュアが良くないと感じるままになってしまいます。
そしていつかは思うのです。
よし、再びアンブシュアを変えようと(以下永久ループ)。