Blog ブログ
冬のトランペットの練習にまつわる「冷たい」現実
以前冬場の唇のケアということでこんな記事を書いたことがあります。
https://mojicul.com/archives/474
この記事は主に唇のケアにフォーカスした内容でしたが、今回はもう少し掘り下げて書いてみたいと思います。
寒い場所での練習、本当に大丈夫?
冬場に寒いところで頑張って練習していませんか?
僕は金村盡志トランペット教室を立ち上げる前まではある程度寒くても近所の公園で練習していました。
さすがに12月以降は室内での練習に切り替えましたが、寒い場所での練習は今思えば非常に効率が悪いというか、無駄というか……
確かに屋外で練習するのは気持ちの良いものですが、今思えばなんて無駄なことをしていたのだろうと思います。
寒くたって唇のコンディションに注意を払ってさえいれば大丈夫と思う方もいるかもしれません。
しかしそんな方、ちょっと危ないかもしれません。
あなたが大丈夫と思って見過ごしていることの中に、実はあなたの上達を妨げている原因が隠されているのかもしれません。
もちろん寒い時期の野外ステージなどでの演奏というのであれば話は別です。
ステージでの見栄えを損なわない程度に防寒対策をして本番に臨むしかありません。
今回取り上げるのはそうではない、通常の練習での話です。
唇に与える影響
寒いときの演奏というと多くの方が連想するのは唇に関してでしょう。
唇が冷えれば血流は悪くなりますし、なんとなく振動しづらいと感じるでしょう。
そんな状態で最高のパフォーマンスを発揮しろというのは無理な話であるということは誰だって理解できるはずです。
唇が冷える原因
唇が冷える原因は冷たい空気に触れるからだと思われがちですが、冷えたマウスピースに触れることが最大の原因ではないでしょうか。
なぜなら空気の熱伝導率は0.024 (以下、単位は全てW/m・k)であるのに比べ、マウスピースの素材である真鍮は106と、比べ物にならないくらい熱の移動を起こしやすいからです。
その差は約4416倍。
ちなみにマウスピースのメッキの材質である銀は420、金は320だそうです。
逆にプラスティック製のマウスピースなら冬でも唇が冷えないと言いますが、これはプラスティックの熱伝導率が低いからです。
各数値引用元:https://www.nihonshinkan.co.jp/blog/2016/11/28/69
もし仮にトランペットを吹いて一時的にマウスピースが暖まったとしても唇を離せばすぐに冷えてしまい、その冷えたマウスピースをまた唇に当てるのですから唇は冷えていく一方です。
もしマウスピースに伝熱線を巻いたりして暖める機能があれば唇の冷えに関してだけは問題が解決するかもしれませんね。
誰か商品化しませんか?大損しても責任は取れませんけど(笑)
唇以外の部分に与える影響
唇さえ冷えなければ良いのかというとそうではありません。
というかこっちの方がより重要です。
音程
一般的によく言われることですが、管楽器は気温が低くなると音程が低くなります。
特に真冬の屋外などでは誰の耳にも分かるであろうレベルで音程がぶら下がります。
音程が低くならざるを得ない状況で正しい音程を目指して練習することはどうしても無理が生じてしまいます。
ちなみに楽器に息を吹き込んで暖めれば良いという意見もあります。
全く効果がないとは言いませんが、所詮は気休めです。
空気の約4416倍を誇る真鍮の熱伝導率の高さを舐めてはいけません(笑)
それでもまあ軽く肌寒いかなという環境なら無駄な努力でもないかもしれませんね。
そもそもトランペットを正しく演奏するということは
まずトランペットとはリラックスして深く息を吸ってから演奏するのが理想です。
ということを忘れないでください。
これを非常に大まかに順序立てて説明するこのような感じになります。
1.頭と体をリラックスさせ、大きく深くブレスする。
2-1.これによって息を吐くとき(=トランペットを吹くとき)には必要最低限の筋肉しか使われなくなる。
2-2.同時に頭がリラックスしているので、これからどんな演奏をしたいかをより明確にイメージすることができる。
3.必要最低限の力みによって吐き出されるエアによって唇で起こる最低限の振動を、明確なイメージングによって導かれる最適な身体の使い方によって最大限に共鳴させることが可能になる。
※さらに言えば余計な力みを排除した上で明確なイメージングを行なっているため、トランペットの演奏(たとえば音の跳躍など)に必要な身体のセッティングも即座に自由自在に対応することができる。
「寒い」と感じるということはどういうことか
一方、あなたが寒いと感じるとき、体は熱を逃さないように筋肉を収縮させます。
「涼しい」ではなく「寒い」ですから、体にとっては不快な情報です。
これは生存するのにちょうど良い暖かい場所へ行けという本能から来る指令です。
もちろん寒さの程度にもよりますが、一般的に暖かい部屋にいる時と肌寒いなと感じる部屋にいる時ではどちらの方がよりリラックスできるでしょうか?
また演奏するのに必要のない筋肉まで収縮させてしまっては深くブレスすることの目的(=必要最低限の筋肉の働きで息を吐く)を達成することができません。
ちょっと回りくどい書き方になりましたが、ようするに寒いところで練習するということはトランペットを演奏する上で非常に大事な要素に対して真っ向から逆らってしまうことになるのです。
どうしても寒い場所でトランペットを練習するには
そんな場所では練習してはいけません。
とはいえ、寒さの度合いや練習する長さにもよります。
少し肌寒いかなという状況でごく短時間であれば普段通りに練習しても良いかもしれません。
しかしここまで書いてきたように寒い場所での練習はトランペットの上達を妨げます。
努力は必ず報われる?
「妨げる」と書きましたが、実際のところ、単に上手くならないだけならまだマシです。
こういった環境で練習を続けることは、時間と労力をかけて誤った身体の使い方を習得することに繋がります。
一言で言えば下手になります。
苦労して練習した結果プラマイゼロならまだしも、頑張って努力した結果マイナスになるのです。
もしかしたら信じられないかもしれませんが残念ながら事実ですし、少なくとも日本ではこの状況に陥っているトランペットプレイヤーが本当に多く存在します。
「努力は必ず報われる」という言葉は嘘です。
「正しい努力のみが報われる」というのが現実です。
もっと正確に言うならば「正しい努力のみが報われる(可能性がある)」となります。
これについては掘り下げるとキリがないのでここまでにしておきますが……
いずれにせよトランペットを上達するためにはそれに適した環境を可能な範囲で整えることだってとても重要なことです。
まあ確かにあなたが既にトランペットの奏法をマスターしているのなら多少悪い環境で練習したって良いのかもしれません。
しかしそうでないのなら良い環境で練習するということはもはやマストと言ってもいいでしょう。
ましてや上で書いたように、寒さを我慢して練習する=トランペットを演奏する上で重要な要素に対して真っ向から逆らうようなことをしていては残念な結果に結びついてしまいます。
というわけで、トランペットの練習は可能な限り体が快適だと感じる気温のもとで行いましょう。
特にトランペットはスタジオを借りるまでしなくとも、カラオケ屋を利用することが可能です(少なくとも僕は今まで断られたことはありません)。
また近年、都市部では個人練習専用の小規模スタジオなども出現していますから、こういったお店を積極的に利用していくのがお財布へのダメージを抑えつつ効率よく上達していくコツなのではないでしょうか。