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初心者だってもっとバラードを吹こう。後編
前回はあまりテーマをフェイクせずシンプルに練習することから始めましょうと書きましたが、後編はその辺りから書いてみましょう。
テーマのフェイクってどうするの?
フェイクとはジャズのテーマ(=メロディ)を崩して演奏することです。
吹奏楽部出身の方などは特に面食らうようですが、ジャズの演奏では楽譜に書いてあるテーマをそのまま正確に演奏することはあまりありません。
特にバラードにおいてその傾向は顕著で、人によってはほとんどテーマの原型をとどめないような演奏をすることもあります。
楽譜に書いてあるメロディを崩しましょうと言われてもどのように崩したら良いのか、特に初心者の方はよくわからないかと思います。
いくつかのジャズ教則本で行われているように、実際にフェイクした楽譜を例示し、この通り演奏しましょうねというやり方も悪くはありません。
しかし元のテーマを即興でフェイクするという本来の視点に立ち返ってみるならばこんなアプローチが有効です。
1.いろんな人の演奏をよく聴くこと
基本的なことですが、これからフェイクをしたいのなら実際にどのようにフェイクが行われているのか、なるべく多くの実例に当たっておかなければ話になりません。
教科書の中身を全て頭に叩き込んだだけで直ちに英語がペラペラ喋れるようにならないのと同じことです。
理想を言えば1つの曲に対して4つか5通りの演奏を聴くことができれば良いでしょう。
同じプレイヤーの別テイクなんてものもたまにありますが、もしそういったものを見つけることができればよく聴き比べてみることをお勧めします。
2.部分的にでもトランスクライブ(=耳コピ)してみる
テーマの演奏を1コーラスまるごとトランクライブするのは大変かもしれませんが、1つか2つのフレーズのみの歌い回しを真似る事はそこまで難しいことではないでしょう。
単に真似をして演奏するだけでもフェイクの引き出しが増えることになりますからバラード演奏の上達に役立つことではあります。
もしその効果を最大限活用したいのならばそのフレーズを楽譜に書き起こしてみましょう。
その瞬間に鳴っているコードに対してどんな音を用い、どんなフェイクの仕方をしているかは楽譜に書き起こすことによって非常によく理解できるようになります。
これを理解できるようになってしまえば他の曲であっても応用をきかせることが可能になります。
3.歌ってフェイクできるか確認してみる
フェイクがうまくいかない理由には上に書いたようなこととは全く別の要素も存在します。
それはシンプルにトランペットをコントロールする技術の問題です。
これに関して基礎練習を頑張るしか……と思いがちですが、決して基礎練習というアプローチのみがその解決方法ではありません(もちろん大事ではありますが)。
やり方はいたって簡単です。
普段トランペットで練習しているバラードを、トランペットではなく声で演奏するだけです。
2で書いたように、誰かの演奏音源に合わせて歌ってみるのも良いでしょう。
コツはよく響く声で、なるべく正確な音程とリズムで歌うことです。
普段歌い慣れない方は気恥ずかしいかもしれませんが、カラオケボックスなど誰もいないところでやりましょう(笑)
よく響く声で歌うのは大きなブレスの必要性に気づくためと口腔内で音を共鳴させる感覚を掴むため、正確な音程で歌う事はトランペットを演奏するときにも音程や鳴りのツボを正確に狙えることに非常に役立ちます。
ぼそぼそと、そしてあまりにも外れた音程で歌ったのでは効果はガタ落ちしてしまいます。
また慣れないうちはなるべく短く1フレーズごとに歌うのをお勧めします。
歌うことによって身体(特に口腔内やブレスに関連する部位)の動きをシミュレートし、その後すぐに同じ部分をトランペットで演奏してみましょう。
歌わない場合よりはるかに楽に演奏できるはずです。
歌に関してはこれだけでもう1記事書けてしまいそうなのですが、そのくらいトランペットの演奏には重要なことです。
アドリブで気をつけるべきこと
ここから先はちょっと上級者向けです。
基本的な事は上に書いたものと全く同じ事なのですが、少なくともミディアム~ミディアムアップくらいのテンポでスタンダード曲をある程度演奏でき、なおかつそういった曲のコードチェンジをアナライズできる程度の知識が必要です。
1.いろんな種類の音符を
前編でも書いたように、ジャムセッションでよく演奏されるようなミディアムくらいのテンポの曲であればずっと8分音符を演奏していてもさほどおかしくはありません。
しかしバラードとなるとさまざまな種類の音符を用いなければメリハリのないつまらない演奏になってしまいがちです。
だからといってとっさに8分3連や16分音符を用いたフレーズを演奏できるのなら良いのですが、ここをご覧の方の多くはそうではないでしょう。
そういった場合は事前にそれぞれ数パターンのフレーズを用意しておきましょう。
これはバラードを演奏している音源からトランスクライブしてももちろん結構です。
16分音符のフレーズを耳コピするのが大変という方は、もともと8分音符で演奏されるフレーズを倍のテンポで演奏するだけで使えることもあります。
2.歌ってアドリブできるか
これもやはり上に書いたことと同じ事なのですが、頭の中にある歌やフレージングをトランペットといういわば「操作に手こずる異物」を排除したクリーンな状態でアウトプットし、そのために必要な最低限の身体の動きをシミュレートすることによってスムーズに演奏することを目指す練習です。
歌ってアドリブしようとすると訳が分からなくなってしまうという場合はもしかしたら今までトランペットを演奏するときの手癖になっているフレーズや音の使い方に頼りきりだったのかもしれません。
基本的にはどんなジャンルの音楽やどんな楽器であっても頭(心と読み替えても良いでしょう)の中にあなたの歌いたい歌がないのならそれは音楽にはなり得ません。
トランペットを演奏するとは、頭の中で歌を産み、それをトランペットという道具を用いて放出するだけの作業です。
特にバラードになるとアドリブの演奏がうまくいかないという人は演奏に際してあなたの中にどんな歌がある(もしくは無い)のかを、トランペットを使わずに歌うことによって確認する作業がとても役に立ちます。
これは前編で書いたように伴奏アプリやメトロノームを使ったり、もしくは慣れてきたら1人で歌って演奏してみましょう。
バラード上達のためになるおすすめアルバム
クリフォードブラウン “With Strings”
トランペットでバラード演奏したいならもうこれだけ聴いておけ!!!というくらいおすすめです。
もちろん他にも素晴らしいバラードの演奏はたくさんあるんですが、やはりこれだけは絶対に外すことはできません。
今回記事に書いたようなフレージングやハーモニーに対する音の使い方などを分析的に聴くのも当然良いですし、トランペットという楽器の魅力を余すことなく発揮してバラードを表現するクリフォードブラウンの歌い回しに聞き惚れるのも良いでしょう。
少しでもジャズを聴きかじったことのある方は「なーんだやっぱ定番じゃん」と思われたかもしれません。
そんなこと言わずにもう一度このアルバムを大音量で流してよく聴いてみてください。
心に響く歌が聴こえてはきませんか?
ロイハーグローブ “Approaching Standards”
バラードアルバムというわけではありませんがバラードが多めの選曲になっています。
バラードの演奏の素晴らしさという点ではクリフォードブラウンには大きく水をあけられてしまいますが、比較的トランスクライブしやすいフレージング、そしてそもそもストリングスをバックにした演奏よりも一般的なジャムセッションに近い形態の演奏のため、バラードの演奏を学ぶためには参考にしやすい演奏です。
特にリズムセクションとのやりとりは現代の演奏ならではのもので、トランペットの演奏だけでなくその他の楽器とのやりとりにも注目しましょう。
初心者だってもっとバラードを吹こう。前編